目次
今年度の活動概要 (高柳 晴香)
ホームレスというと怠け者といった世間一般の見方がありますが、実際に話を聞いてみると以前は働いていたが、
ちょっとしたきっかけや不運なことが重なってしまったために路上生活をせざるを得ない状態になってしまったという方がたくさん居ます。
こういった認識の差を受けて、わたしたち北海道の労働と福祉を考える会は発足以来当事者を知ること、
そのために「当事者とか変わり続けること」を大切にし、今年度もこのことを常に考えながら活動を続けて参りました。
近年、札幌市をはじめとして多くの市民の方々やマスコミが路上生活者問題に注目をしています。
ただし、彼らに向けられる視線は必ずしも彼らの現状を反映したものとはいえない場合があります。
こういった現状を受け、今年度は当事者と関わる一方で彼らの置かれている現状の厳しさを
多くの人に伝える必要があるという認識をもち活動をスタートさせました。その主な内容は、以下の通りです。
第一に、計5回の生活健康相談会です。そのうちの2回は炊き出し・総合相談会という名目で札幌市と共催という形で行いました。
札幌市民会館の会議室を借り、暖かくくつろげる場所作りと食事や生活物資の配布、健康・生活の相談などを行いました。(参照:生活健康相談会)
第二に、生活保護申請のための付き添いや、その他当事者の方々が直面している問題に出来る限りの対応をしてきたことです。
生活保護申請の付き添いは、主に生活健康相談会の場で付き添いを希望する当事者の方と当会のスタッフが約束をして区役所へ行くという形をとっています。
今年度は約60ケースの申請の付き添いをし、多くの方の生活保護受給が決定しました。(参照:生活保護申請の付き添い報告)
第三に、札幌市からの委託という形で行った人数確認調査です。
今年度は9月11日の早朝から札幌駅や大通りだけでなく札幌市内の広い範囲を見て回りました。
結果は90名の方を確認しました。(参照:人数確認調査報告)
第四に、随時行った夜回りです。夜回りは私たちの方から当事者の方々が生活する場へと足を運び、
2〜3ヶ月に一度しかない炊き出し以外でも当事者の方々とのつながりを大切にするために行っています。
第五に、札幌市保護課との懇談、北海道内の支援団体と合同で行った北海道庁との意見交換会です。
今年度札幌市は就労支援プログラムや、ホームレス専門相談員の配置など新たな試みをスタートさせました。
また、北海道内のホームレス支援団体の緩やかなネットワークも立ち上げられ新たな動きが生まれました。
(参照:他団体・機関との連携について)
第六に、路上から居宅へと移られた方への事後調査です。
当事者の中には路上生活から居宅に移ったあともさまざまな問題を抱えている場合が少なくありません。
そこで現状を把握し、会としてそういった方々に何が出来るのかを模索するために現在調査を行っています。
(参照:今年度の調査)以上が今年度の当会の活動概要です。
今年度の特徴としては、五つ目の他団体・機関との新たな交流が生まれたこと、
六つ目の居宅生活調査を始めたことをあげることが出来ます。
また、新たに生まれてきた問題点もあります。
詳しくはこの後の各報告で明らかにし、来年度の課題として取り組んでいきます。
2004年度の活動内容報告
- 5月20日
- 札幌市との意見交換会(1)
- 5月29
- 炊き出し・健康相談会(札幌市との共催)
- 7月18日
- 生活健康相談会
- 7月23日
- 北海道庁との意見交換会・自立支援ネットの立ち上げ
- 8月25日
- 全道支援ネットワークの集まり(1)
- 9月11日
- 人数調査
- 9月12日
- 札幌市との意見交換会(2)
- 10月2日
- 炊き出し・健康相談会(札幌市との共催)
- 10月15日
- 学習会
- 11月6日
- 生活健康相談会
- 11月26日
- 全道支援ネットワークの集まり(2)
- 12月18日
- 年越し朝回り
- 1月22日
- 生活健康相談会
- 2月20日
- 総会
生活健康相談会報告 (嶋田 宇大)
今年度、労福会は表1に示すように計5回の「生活健康相談会」を行い、そのうち、5月と10月は札幌市との共催で行いました。
「生活健康相談会」の内容は年々充実してきており、今年度も野宿をしている方々に喜ばれる相談会を実施することができたと思います。
以下では、(1) 生活相談会の目的・意義、(2) 来場者について、(3) 相談会の内容、(4) 支援者について、(5) 札幌市との共催について、
の順で今年度の相談会を総括したいと思います。
(1) 健康相談会の目的・意義
「生活健康相談会」の大きな目的は、野宿者に短時間ではあるが暖かくくつろげる場所を提供し、労福会のメンバーと出会い、
コミュニケーションをとる中で信頼関係を築き、脱路上の可能性を探ることです。
また、生活物資を渡す、健康に関心を持ってもらう、(4)で詳しく触れますが野宿者の現状を市民に広く知ってもらう機会をつくる、
という目的もあります。今年度もおおむねこの「目的」が達成できたと思います。
労福会の「生活健康相談会」は他の支援団体と違って二ヶ月に一回程度しか開いていません。
私たちはそのような労福会の「生活健康相談会」はどのように意義をもつのか、繰り返し問い直してきました。
毎回60名以上の来場があるのは、生活物資を配布する他に、野宿者のニーズをできるだけくみ取り、
様々な人の協力を得て、健康相談や散髪、区役所へ生活保護申請の付き添いなど、独自の支援をしているからだと思います。
そこに「生活相談会」の大きな意義があり、野宿者からの信頼を集めているのだと思います。
(2) 来場者について
今年度の来場者数は表1のようになっています。来場者は、古くから野宿をしている人、最近野宿になった人、再野宿の人などがいます。
今年度の特徴として、労福会が一度脱野宿の支援をしたが再び野宿になってしまった人とよく出会うことが挙げられます。
労福会では毎年数十人もの野宿者の脱野宿をサポートしているにもかかわらず来場者数が減少しないのは、
新しく野宿になる人、生活保護を切られ再野宿になる人などの状況が反映されています。
また来場者には、野宿者以外に、収入がなく友人の所に居候している人や、脱野宿を果たしたが生活に不安がある方など様々な人がいます。
私たちは、支援の対象を野宿者だけに限らず、生活に困っている人なら誰でも参加してよいというスタンスで
「生活健康相談会」を行っています。これは労福会として、「相談会」の対象はどこまでなのか、今まで議論を重ねてきた結果です。
年金や生活保護だけで生活できないことや、
長期不況とリストラ・高失業率から、貯蓄を使い果たし、実際に野宿をしていなくてもいつ家を失うかわからない人がいる状況があります。
私たちは支援を重ねていく中で、単に野宿をしている人たちだけを支援したのでは何ら解決にならない、
住む場所が路上か家かだけでは計れない野宿者問題の深さを認識してきました。
真の「自立支援」とは何なのか、どこまで支援すべきなのか考えさせられます。
(3) 相談会の内容
物資の配布
今年度も、おにぎり・豚汁(1月はみそ汁)、タオル、歯ブラシ、使い捨てカイロ、
缶詰、石けん、軍手、靴下、ひげそり、風呂券、衣料品などを、野宿者のニーズ、季節に応じて配布しました。
風呂券は北海道公衆衛生浴場協会が発行しているもので、同協会に加盟している銭湯ならどこでも利用できます。
毎回2枚程度配布しています。食事は、10月までは養護老人ホーム・静山荘の調理室の方々におにぎりと豚汁を作っていただいていましたが、
諸事情により、11月からは弁当屋である「山の手屋」に頼んで作っていただくことになりました。
1月は試しに、鮭や唐揚げの弁当と味噌汁に変えてみたところ、野宿者には大変好評を博しました。
衣料品は毎回多くの市民から寄付をいただきました。今年度の特徴は、労福会の活動がいくつかの広報に載ったこともあり、
それをご覧になった方から寄付をいただくことが何件かありました。
毎回「余るんじゃないかな」と心配するほどの衣料品を用意しましたが、あっという間にさばききれました。
ただ、冬季は衣料品の需要が高く、どのような配り方をしたら野宿者に公平に配布できるかという課題が残っています。
生活相談
相談会では私たち支援者が野宿者に話しかけに行きます。
最初は世間話からでもいいので、野宿者と私たちがつながれるきっかけを作ります。
話が進むと、借金や病気など野宿者が抱えている様々な相談を持ちかけられることや、
生活保護でもう一回自立したいという野宿者も出て来ます。相談会の場には司法書士や医師も参加してくださるので、
例えば債務問題が解決できたり、病気の人には健康相談をすすめ病気が見つかったりします。
このように私たちは野宿者のよろず困りごと相談に乗りながら、
希望者には生活保護申請のために役所への付き添いを受け付けることにしています。
今年度は、生活相談から付き添いへの移行がこれまで以上にスムースになったと思います。
労福会としては、いかに生活相談や健康相談から役所への生活保護申請を含めた自立につなげるかが、今後の課題です。
健康相談
北海道勤労者医療協会(勤医協)の医師と医療ソーシャルワーカーにボランティアで診察とアドバイスにのっていただきました。
毎回5〜10名ほどの相談があり、高血圧や糖尿病など慢性疾患の患者が多いのが特徴でした。
また野宿に至る前の労働を反映してか、腰痛を訴える人もいました。
ほとんどの相談者は野宿に至る前に医療機関に通院していた人で、医療機関を受診する必要がある状態でした。
そこで私たちは相談会後、検診に行きながら生活保護の申請もサポートするという支援も行いました。
労福会の健康相談は、医師に診て貰える貴重な機会のため、野宿者の健康状態を維持する上で毎回健康相談を行う意義は大きいと思います。
毎回来ていただいている医師の方は、「相談者の疾患には強い自覚症状を示さないものが多く、
相談者以外の来場者の中にも医療機関への通院が必要な人が多く含まれている可能性がある。
相談会来場者の健康を守るためには、『待つ姿勢の健康相談』だけでなく、血圧計を手に机をまわるなどの方法も検討すべきではないか」
ということをおっしゃっていました。また、記録を保管し継続して活用出来るようにするため、
例えばカルテのようなものを作成することや、相談者のその後をフォローできる方法を検討することも課題です。
散髪
希望者には毎回散髪を行っています。北海道民主医療機関連合会(民医連)から紹介していただいた理容師や、
11月はNPO法人・日本理美容福祉協会センターの方にボランティアで来ていただきました。
散髪は長蛇の列ができるほど野宿者に人気で、毎回20人前後の散髪を行いました。
(4) 支援者について
毎回の相談会に支援者として30名以上が参加しています。学生や市民をはじめ、
医師、教員、理美容師、弁護士、司法書士、医療ソーシャルワーカー、議員、教会の方、元野宿者など
非常に広範な人が支援に関わっています。特に今年度は司法書士や医療ソーシャルワーカーなど
専門家の関わりがいっそう広がったことが特徴でした。このことが、例えば野宿者の債務問題の解決につながるなど、
野宿者からいっそう信頼を寄せられる結果になったと思います。
また、私たちは野宿者問題を市民に直接アピールするという観点から、
相談会は誰でにでも気軽に参加できる開かれた場にしています。毎回初めて参加する支援者がたくさんいます。
共通している感想として、「野宿者が普通の方で、しかもとても親しみやすかった」
「誰とでもちょっとしたことで野宿になってしまうんだなということがよくわかった」という声が聞かれます。
こうして野宿者に対する理解と支援をする人の輪が広がりつつあります。
また、相談会の初参加者は、野宿者に何を話しかけたらよいのかわからなく、
何かしたいけど後込みしてしまう人がいる場合も少なくありません。そこで私たちは、
初参加者には経験者が一緒に話しかけに行くようにするなどの改善を試みました。
おかげでその後の相談会はとてもいい雰囲気でできたと思います。
(5) 札幌市との共催について
札幌市との共催企画である「炊き出し・総合相談会」では、午前中に健康診断(検尿、血圧測定、血液検査、X線)、
お昼に食事と生活物資の配布、午後に総合相談として、精神保健相談(札幌こころのセンター)、
就労相談(ハローワーク)、法律相談(札幌弁護士会人権擁護委員会)、生活・福祉相談(区役所保護課)が行われました。
なお、11月は健康診断の結果配布のみ札幌市が担当しました。また、この企画はNPO法人・ハンド・イン・ハンドも共催しています。
札幌市との共催が定期化され、野宿者の間にもそれが定着し始めたように思います。
札幌市と共催することの意義は主に2つあると思います。
第一に、ハローワークや人権擁護委員会、区役所保護課など多くの機関を巻き込みながら、
普段できない野宿者のニーズに沿った支援ができたことです。例えば労福会では、
就職に関する事柄は知識も情報もないため、野宿者への支援に限界がありました。
それが今回ハローワークの力を借りることにより、従来できなかった就職支援が多少は可能になりました。
実際、就労相談をする野宿者が毎回たくさんいました。
第二に、行政が路上生活の実態を直視することによって、行政の対応がより野宿者の要求にそう施策になりうる可能性が開かれたことです。
なお来年度は、春(5、6月)は労福会が中心となって市や他の支援団体の方と一緒に行います。
秋はNPO法人・ハンド・イン・ハンドが中心となり、労福会はその補助として関わることとなっています。
回 | 日時 | 来場者数 | 生保同伴数 | 特記事項 |
---|---|---|---|---|
1 | 5月29日(土) 9時〜15時 | 109 (123) | 12 (7) | 札幌市と共催 総合相談会実施 |
2 | 7月18日(日) 18時〜21時 | 106 (135) | なし (16) | スタッフ不足で生保同伴不可 マッサージコーナー実施 |
3 | 10月2日(土) 9時〜15時 | 74 (122) | 12 (17) | 札幌市と共催 総合相談会実施 |
4 | 11月6日(土) 18時〜21時 | 64 (88) | 17 (13) | 10月2日実施健康診断の結果返却 |
5 | 1月22日(土) 18時〜21時 | 74 (85) | 11 (15) |
(注)生保同伴数:生活保護受給を希望する方とスタッフが区役所へ行き、申請の手続きなどをお手伝いしています。
各回共通事項
- 会場
- 札幌市民会館(北1西1)
- 主な内容
-
- 炊き出し (おにぎりと豚汁、又はのり弁)
- 生活物資配布 (タオル、石けん、靴下、缶詰、歯ブラシ、入浴券など)
- 衣料品配布
- 健康相談
- 散髪 (第1回除く)
- 参加スタッフ
- 学生・市民の方合わせて30〜40名が参加しております
- お知らせ方法
- 野宿者へ炊き出しを実施することをお伝えするために、当会は早朝に大通・札幌駅付近でビラ配りを行っております
生活保護付き添い報告 (世良迪夫)
路上生活を脱する一つの方法として生活保護の申請が挙げられます。住所不定で身寄りも無く、そのためなかなか仕事にも就けない。
生活保護はそんな辛い生活から抜け出したいときの助けとなります。当会では野宿者に生活保護制度について説明を行い、
希望する方には生活保護同伴という形で会のスタッフが付き添い、行政窓口へ申請の相談に行っています。
野宿者は生活保護について正確な知識がない方がほとんどで、一人で相談に行くのは心細いものがあります。
同伴は、野宿者の不安を和らげ、生活保護をスムースに申請できるようになれば、という思いから生まれました。
今年度に当会が同伴をした方は約60名で、そのうち約50名は生活保護を申請することができました。
現在 生活保護を受ける際に住まいが定まっていないと、それを認められるのはたいへん難しい仕組みになっています。
住まいを持たない野宿者がなんとか生活保護を申請するためには、大きく分けて4つ方法があります。
まず、保証人や前金がなくても借りられるアパートをなんとか探し入居する方法。
次に、救護施設に緊急入所し、施設を一時的な居場所として申請を行い、その後居宅を探して入居する方法。
また、治療の必要な方については病院に入院し、病院を一時的な居場所として申請を行い、治療後に居宅へ入居する方法。
そして、今年度から市が取り組みを始めたホームレス救護施設就労支援入所を利用する方法があります。
これは仕事探しを優先したい野宿者に対し求職活動などの支援を救護施設で行い、自立を支援するものです。
今年度に当会で付き添いをした野宿者は、アパート入居が約25名、救護施設入所が約20名、就労支援入所が約5名、病院利用などその他の事例が約10名でした。
ただ、いずれの方法も容易にできるとは言えません。保証人・前金なしで借りられるアパートを探すのはかなり困難です。
近年になってアパート確保の際に市が敷金を給与する事例も見られるようになりましたが、
今のところ市は敷金給与にかなり慎重な姿勢をとっており、さほど多くの事例はありません。
また、救護施設の空きが少ないので何週間も入所するまで待つことになる場合や、入院の必要がないと判断される場合も多いので、
申請のための場所だけでも確保するのは一苦労です。救護施設就労支援入所では、仕事に就いて退所された方もたくさんいますが、
一方で期限付き雇用など不安定な職もあって退所後の生活を支えるのに十分ではない場合もあり、再び野宿となった方も見受けられます。
同伴活動を行う上でいくつか課題もあります。まず、同伴を請け負うスタッフが一部の人に偏ってしまうことです。
大勢で行う炊き出し・総合相談会とは異なり、同伴では個人個人に大きな負担がかかります。同伴希望に対応しきれないこともありました。
前年度より同伴スタッフが増えたことで、少しずつ個人への負担は軽減されてきてはいますが、未だ十分に負担が分散しているとはいえません。
また、同伴を行った記録が徹底してなされなかったことも改善する必要があります。
同伴を行ったスタッフは同伴の内容を記録書に書いて会に提出することになっているのですが、
記録書の作られなかった同伴が何件かありました。記録書がないと、同伴に関する情報が把握できず、事後に繋げることが大変になります。
他に、生活保護を受け居宅で生活するようになった方へのサポートをどのようにするかということが課題として挙げられます。
居宅に移っただけでは十分に自立したとはいえず、その後 生活保護を切られてしまい再び路上生活に復帰する人も少なくありません。
会として居宅に住むようになった方に年賀状を出すなどはしていますが、他にもどのようなことができるのか、どの程度までできるのか、
今後 具体的に話し合っていく必要があります。当会の目的は生活保護申請をすることではなく、あくまで自立を支援することだからです。
今年度の調査 (寺島 祐一)
今年度、「労福会」は3種類の調査を行いました。第一に「人数確認調査」があります。
当会は発足以来、毎年、野宿者の人数をカウントしてきました。
この調査は、札幌市のどのような場所でどれくらいの人達が生活しているのか、
また季節や年毎の人数の推移はどのようになっているかを把握するために行われています。
今年度9月の人数調査は、昨年と同様に札幌市からの委託を受けるという形で行われました。
また、12月には「年越し企画」として生活用品配布を兼ねて、おおよその人数を確認しました。
(コラム「夜回り・朝周り報告」参照) 第二に「札幌市ホームレス生活実態調査」を行いました。
この調査は、北海道の「ホームレス実態把握調査」の一環として札幌市が行ったものです。
当会は、10月2日の炊き出し・総合相談会の際に調査のお手伝いをしました。調査項目は性別や年齢などの基本属性のほか、
「野宿をするに至った理由」や「現在の収入」など多岐に渡ります。第三に「脱野宿後の追跡調査」です。
当会がお手伝いをさせていただいた中で、居宅での生活を送られるようになった人に対し調査を行いました。
以下、「人数確認調査」「脱野宿後の追跡調査」について報告いたします。
「人数確認調査」について
調査方法と課題
これまでの経験から私たちは、調査範囲を札幌駅周辺、大通公園、豊平川河川敷、市内主要公園などに限定しています。
また、調査開始時間も重要となります。寝場所にいる人を確認することによって、その人が野宿者であると判断しやすいこと、
日が開ける頃には彼らは寝場所からいなくなってしまうため、重複してカウントする可能性が生じてしまうことから、
調査は早朝4時ころから開始されます。具体的にはスタッフが2人1組になって各区域を回り、目視で年齢や性別を確認しています。
このような方法で調査を行っていますが、課題もいくつか残されています。第1に調査参加者が不足しがちであることです。
同時刻に広域を回るという調査の性格上、多くの調査員が必要となります。第2に目視調査の客観的な限界があげられます。
ひと晩中歩き回る人や建物の中にいる人たちも少なくないと思われます。また、野宿者を見過ごしてしまう可能性もないとは言い切れません。
このような点を考慮すると、私たちの調査は必ずしも完全とはいえず、実際には調査結果より多くの野宿者が市内に存在すると考えられます。
今後も調査を続けていく上で、私たちは十分な調査員を確保するとともに、
「どこに野宿者がいるのか」という情報を事前に収集することで、より正確な実態を把握できるよう努めます。
調査結果から
まず、区域別では、札幌駅周辺と大通周辺で生活している人が圧倒的に多いといえます。
両区域とも人目のつかない階段やベンチで夜を過ごす人が大勢います。
特に札幌駅のバスターミナルには毎回30人ほどの野宿者が確認されます。
また、昨年度と比べて豊平川河川敷で生活している人が減少しました。
これは03年10月の河川敷改修工事の際に、札幌市が野宿者に対して退去命令を出したためです。
次に年毎の推移についてです。調査開始当初の00年頃と比較して、野宿者数は緩やかな減少傾向にあるものの、
依然として100名近くの人たちが札幌の寒空の下での生活を余儀なくされています。
また、当会が関与した人に限定しても年間50人から60人以上の人達が生活保護を受給し「脱野宿」を果たしています。
このことを考えると、新たに野宿を強いられた人や生活保護を打ち切られ再野宿へと至った人が大勢いると予想されます。
このように、私達は難しい状況に直面していますが、その都度、粘り強く支援し続けることの重要性を再認識しています。
調査場所 | 人数 ()内は03年冬 |
---|---|
札幌駅・駅前バスターミナル | 40 (29) |
大通・狸小路 | 40 (44) |
中島公園・ススキノ | 7 (1) |
地下鉄主要駅バスターミナル | 0 (1) |
JR沿線市内主要駅 | 0 (1) |
豊平河川敷 | 3 (15) |
合計 | 90 (91) |
脱野宿後の追跡調査
今年度10月より、脱野宿後の皆さんの生活の実態を把握するため「脱野宿後の追跡調査」を開始しました。
会設立以来、取り組んできた生活保護申請同伴も5年目を迎え、多くのスタッフが様々なケースに立ち会ってきました。
いまや、生活保護申請同伴は、当事者を路上から行政へつなぐ当会の重要な活動の一つです。
ただ、生活保護を利用して野宿からアパートに移られた方々の数が増える一方で、
再び路上生活に戻ってしまう人も少なくないことを私たちは認識することになりました。
アパートに入居し新生活を始めた時の皆さんの笑顔を知っている私たちとしては、とても残念なことです。
このような問題意識から脱野宿後の皆さんの生活の様子、苦労などを明らかにすることを目的にし、2004年12月から調査をすすめています。
2月20日現在では、8人の方に調査にご協力いただいています。
今後も随時、調査件数を積み重ね、新年度に入ってから結果のとりまとめと報告をしたいと考えています。
コラム「夜回り・朝回り報告」
当会は、多くの野宿者が生活している札幌駅周辺や大通などに出向き、野宿者と継続的なコミュニケーションを図っています。
これを「夜回り」と呼んでいます。実際に駅などで生活している野宿者と対話して、彼らの抱えている問題・悩みを共有すること、
様々な事情で炊き出しなどに参加できない人への対応をすることが主な目的です。今年度は計10回ほどの夜回りを実施しました。
特に、年越し企画として12月19日に行った「早朝回り」では、多くの人へ生活用品をお渡しできたと同時に、
おおよその野宿者の人数を確認することができました。参考までに、早朝周りの際に確認できた人数を記します。
- 札幌駅:
- 26名
- 大通り・狸小路:
- 20名
- 新札幌:
- 4名
- 豊平川河川敷:
- 2名
- JR琴似駅:
- 1名
- 合計:
- 53名
他団体・機関との連携について (佐々木 宏)
今年度も、労福会は会員以外の多くの方々からもご支援を受け活動を進めてきました。
衣類ほか物資の提供、また活動にさまざまな便宜をはかっていただくなど、ご協力をくださった皆様に感謝したいと思います。
どうもありがとうございました。ここでは、そうした多くの皆様について触れるスペースもありませんので、
ご協力いただいた、また連携のもとに活動を進めてきた諸団体・機関に限り報告したいと思います。
まずは「ホームレス」支援団体との関係についてです。今年度は昨年度以上に関係が広がり深まった年であったといえます。
在札の支援団体のNPO法人ハンドインハンドさんとは、
札幌市との共催となった「総合相談会」における民間サイドのパートナーとして連携を昨年以上に深めています。
ただ、「総合相談会」の役割分担を十分に詰めて議論しなかったことや日常的な情報交換が足りなかったことなどから、
細かな不都合が生じたこともありました。現在、来年度に向けて「総合相談会」の役割分担を
ハンドインハンドさんと調整を進めていますが、来年度もますます情報交換と意思疎通を円滑に進めていくことが望まれます。
また、今年は旭川、苫小牧、函館にある支援団体との連携が具体化した年でもありました。
2004年8月に札幌市内3団体と各地の団体が、北海道庁との懇談会のため初めて集まった際に、
「ホームレス支援ネット北海道」を発足させました。このネットワークではメーリングリストの運用を開始しています。
しかし、緩やかなネットワークを作ったに過ぎる、また情報交換もそう盛んではあるとは言えません。
北海道の支援団体のネットワークは、道庁との関わりにおいて意味を持ちうると思われます。
今のところ鮮明ではありませんが、道庁のホームレス問題に関する動きが来年度具体化する可能性は高いので、
その時に、今年出来たネットワークの力が試されることになるでしょう。
昨年度の総会で課題とした本州の支援団体との関係です。今年度は日程の都合上、
全国の支援団体の交流会にスタッフを派遣することが出来ませんでした。
しかし、2005年2月には仙台の支援団体「仙台・夜回りの会」の活動視察を行いました。
総会の直前に行われた仙台訪問の詳細は省略しますが有益な訪問となったことだけはここに明記し、
来年度も同様の機会を持つよう期待しています。
次に、当会の活動に力を貸してくださった諸団体について報告します。
今年度も昨年度同様、炊き出しの際の食事の準備は、養護老人ホーム・静山荘さんにお願いしていましたが、
やむを得ない事情のため、2005年10月の炊き出しを最後に、静山荘さんからの食事提供は終了しました。
2005年11月からは、西区の弁当屋・山の手屋さんのご協力を得て、炊き出しの食事を用意することになりました。
今年度後半の2回の炊き出しでは、山の手屋さんが格安で用意してくださったおにぎりやのり弁が大好評を得ています。
食事を自らで継続的に用意することが難しい当会にとっては、これまでの静山荘さん、
現在の山の手屋さんのような協力機関の存在は欠かせません。静山荘さんのこれまでのご厚意ご協力に感謝すると同時に、
無理をお引き受けくださった山の手屋さんに感謝したいと思います。どうもありがとうございました。
北海道民主医療機関連合会(民医連)さんからも、昨年度に引き続きご協力いただいています。
民医連さんは、生活健康相談会へ医療専門家を派遣してくださり、また、理美容師さんやマッサージ師さんを紹介していただきました。
さらに、先に触れた道内支援団体のネットワークは、民医連さん無しには成立しなかったといっても過言ではありません。
来年も是非、労福会へのご協力をお願いいたします。
また、今年度は昨年度に始まった法律の専門家との関係も広がりました。今年度も人権擁護委員会の弁護士さんたちと
「総合相談会」をご一緒しています。また、今年度後半から、札幌司法書士会の有志の方々が、
労福会の活動に積極的に参加されています。債務処理を中心に野宿者の法律相談に関するニーズは大きいので、
これらの関係が来年に向けて更に深まっていくことを期待しています。
最後に、札幌市ほかの行政機関との関係です。今年度あたりから市との協力関係の形はある程度、整ってきました。
たとえば、年に二回の「総合相談会」の共済、野宿者調査の受託実施、三回の意見交換会(04年5月、9月、05年3月)などが、
ほぼ「定例化」してきました。このことは2005年1月に発表された札幌市の『ホームレスの自立支援のための取り組み方針』のなかに
労福会ほかの民間支援団体がそれなりに位置づけられたという事に関わっています。
来年度も、まずは、整ってきた枠組みの中で、引き続き協力関係を継続していく必要があります。
ただし、今年度からスタートした札幌市の「ホームレス」支援のあり方に、労福会は全面的に満足しているわけではありません。
今年度も昨年度同様、日常的な活動に追われ、市に対してよりよい支援のあり方を提案していく試みが弱かったといわざるを得ません。
この点については、今年度から始まった道庁との関係においても同様、協力関係を維持しつつも、
活動の中で知り得た当事者が抱える様々な困難をふまえ行政に対し「言うべき事は言う」という姿勢を貫いていく必要があるでしょう。
今年度の反省と来年度へ向けて
会の活動も5年を終え、ある程度の経験やノウハウが蓄積されてきたということが言えます。
しかし、個々の活動が何故行われるようになったのかということが次の世代にうまく伝わっておらず、
単に前年度の活動を模倣をしてしまっているという面があります。今年度は特にそういった面が強く、
今一度個々の活動の意味や目的を確認または再定義し、野宿をされている方、脱野宿を果たして居宅に移られた方、
あるいは野宿の予備軍と呼ばれるような方の現状や思いにあった支援の形を取ることが必要であると考えています。
また、今年度は行政や他の支援団体の方々との関わりが去年にも増して増えてきました。
札幌市そして私たちを含めた市内の支援団体の活動が、全体として当事者にあった形での自立のお手伝いがしていけるよう
自分たちの役割・活動の目的を常に確認し、互いに協力できるところは協力し合い、その一方で主張するところでは主張するといった形で
目的達成のために一歩ずつ進んでいって欲しいと思います。さらに、行政や他の支援団体との協力に加えて
市民の方々へのアピールも重要な活動のひとつであります。ホームレス自立支援法の制定などによって野宿者への関心が高まっている中で、
野宿者の現状を少しでも多くの人に伝える努力をすることを今年度の目標としていたのですが十分に行えていたとはいえません。
また、野宿者自身も自分の置かれている状況が自分自身の責任だけではないということをもっと認識する機会を持つことが必要でしょう。
そこで、当事者も含めた多くの人々がともに学ぶ機会を設けていくなどという試みが出来ないでしょうか。
ともあれ、まずは路上でも居宅でも「かかわり続けること」を大切にし、
そこから見えてくる問題を解決していくために自分たちの活動がどうあるべきかを考えていく必要があるでしょう。
来年度の活動が当事者にとってよりよいものとなることを次の事務局の方々に期待します。