札幌のホームレスの実態 より明らかに−札幌市内路上生活者実態把握調査 中間報告会実施−
今月6日に北海道大学教育学部において、札幌市路上生活者実態把握調査の中間報告会が行われ、
調査に参加した15人に対して、調査を集計した北大大学院の小西祐馬さんから報告がなされ、意見交換を行いました。
報告に先立ち、「北海道の労働と福祉を考える会」(以下、「労福会」と略)の南部葵事務局長が、
「今回の調査は、路上生活者への本格的な聞き取り調査としては、北海道でもごく少数の部類になる」と挨拶し、
また「当会が得たデータは、会の中でしまって置くのではなく、札幌市民をはじめ、広く知ってもらうよう努めるべきだ」と力説しました。
7月下旬から8月上旬を中心に、当会では札幌市内の路上生活者を中心に実態把握調査を行いました。
これまでは、実数把握調査が労福会の調査のメインでしたが、それに加えて、
札幌という北の地に存在する路上生活者の特徴を把握し、同時に他の地域で行われている調査と比較することで、
改めて路上生活者の抱える問題を把握し、労福会の活動の指針にするとともに、
路上生活者の支援の一助にしようと考え、今回の調査を行いました。
健康状態 | 人数 |
---|---|
良い | 16 |
まあ良い | 7 |
ふつう | 24 |
あまり良くない | 11 |
良くない | 6 |
わからない | 2 |
無回答 | 1 |
計 | 67 |
症状(複数回答) | 人数 |
---|---|
めまい | 18 |
しびれ・まひ | 12 |
咳 | 3 |
下痢・腹痛 | 4 |
かゆみ・発疹 | 7 |
目やに・かすみ目 | 12 |
食欲不振 | 2 |
急激なやせ | 8 |
だるい | 10 |
耳鳴り | 4 |
吐き気・嘔吐・胃痛 | 5 |
むくみ | 4 |
頭痛 | 8 |
腰痛 | 16 |
不眠 | 14 |
その他 | 15 |
症状なし | 16 |
計 | 158 |
ここに掲げたのは、調査報告のごく一部についてです。
詳細については、報告書が出来次第、読者の皆様に改めてご案内・ご紹介いたします。
なお、これらの表からわかることとしては、「健康状態」を尋ねたときには比較的「良い」と答える人は多いものの、
具体的な症状について尋ねると、複数の症状を訴える人も多く、医師の診断次第で、
何らかの病気(それも早急に治療の必要な)を抱えている人が多いといえます。(南部事務局長)
調査に協力した参加者の声
ここでは、報告会で行われた意見交換の一部を抜粋しました。
- 出身地は道内が多い(全体の8割近い)。
- 未婚の人が多い(全体の半分を占める)。
- 従来、ホームレスの人たちのイメージは均質なものであり、一つの集団のようにみなしていたが、実は、いろいろな背景を持っていることがわかった。
こうしたことを世間の皆様に伝えるべきだ。 - こんなにいるとは思わなかった。
- 以前は、見かけても、「いるな」と思う程度であったが、少し関わっただけで見方が変化した。
- 当事者だけでなく、あらゆる人に関心を持って欲しい。
- 質問を通じて、自立についてのモチベーションが高いということがわかったものの、彼らを支援していく術がない。
このことについて考えていく必要がある。 - これまで労福会の活動を通じて、付き合った人を数にしたのは強みであり、明確になった。
- 札幌の路上生活者の状況を示す基礎的かつ重要なものである。
今後も、こうした調査を続けていくことで、札幌市の路上生活者の状況をより明確にし、 労福会の支援活動に役立てていきたいと考えております。
「エルムの里公園」における市による退去要請−札幌「ホームレス」初の退去問題−
新聞などで既に報じられておりますが、10月10日(水)、北区エルムの里公園(北6西8)にて、
市役所保護指導課、北区土木部管理課を中心にした札幌市役所による住民(公園内でテント生活をする野宿者)へ退去要請が行われました。
これは、公園内で「不法」にテント生活をしている人々に対する市の初めての組織的な退去要請です。
市によると、11月末日をめどに、退去を完了し、その後、フェンスで囲い夜間施錠できる管理型公園にするための再整備工事を開始する予定とのことでした。
もちろん、市役所としては、単に野宿者に退去を要請するだけでなく、希望者に関しては退去後の生活に関する相談を同時に開始しておりますが、
何らかの対策を講じることなしには基本的に行くあてのない野宿者(15〜20名)に対して冬を前に突きつけられた厳しい現実であるという意味では、
他都市では既に問題化している公有地における「ホームレス」退去問題が札幌でも発生したといえるでしょう。
労福会には、不定期に実施されている保護指導課との懇談を通じて、
退去の正式要請が当事者に行われる直前(10月9日)に、この件は通知されました。
その際あった市役所の説明と質疑応答、それから本日(10月12日)エルムの里公園で実施されている臨時相談窓口に行って
市職員と当事者から聞き取ったことから、市の基本方針とエルム退去問題の現状を報告いたします。
まずは、市役所の基本的な考え方ですが、@退去のめどを11月末日とすること、
A11月末日に向けて各区の保護課から職員を派遣し、退去後の生活について相談に応じるという二点に整理できます。
相談活動は、さしあたって10月10日から3日間の午後に実施されており、今後も週に一度くらいのペースで実施される予定になっております。
この相談を通じては、本人が希望する限り、また本人の事情に応じて生活保護制度を使って、
病院での治療、施設(救護施設)への短期的かつ臨時の入所、アパートでの生活保護を利用した生活に至る道を模索することになります。
こうした、市の考え方に対して、当事者の反応は、冬を前に急に要請されたという意味では当然ですが戸惑い・驚きが一様にみられ、
また、「本当に生活保護で対応してくれるのか?」など市の姿勢への不安がみられました。
相談開始3日目までには、この当初の戸惑い・不安は、市による説明と個別的な相談によって解消されつつあるようですが、
依然として退去後の生活に不安を感じてらっしゃる方は存在します。これは、これまで何度も区役所の窓口へ生活保護のことで相談に行き、
「住所がないから」「市民ではないから」といった理由でまともに対応してもらえなかった経験があり、
行政に不信感を持っている方が多いことを考慮すると当然のことといえます。従って、この不信感にどう対応するのかが、
市による相談活動においてまず問われることだいえるでしょう。
一方で、今日までに数名の方が退去要請に応じ、生活保護受給に向けて手続きを開始しております。
この動きは、ある程度積極的に受けとめることはできるのですが、
仮に今回の対応がエルムで野宿していた方々のみに特例的に認められることに過ぎないとすれば、
札幌駅周辺や大通公園周辺で野宿しているその他の方々への配慮に欠けていると言わざるを得ません。
真冬を前に、「適切な治療を受けたい」「アパートで暮らして求職の条件を整えたい」といった要望は
その他の方々の中にも当然ありますが、今回のように当事者の生活の場に市職員が出向いて生活保護制度の説明や相談を行うという
新しい試みが、札幌の野宿者に普遍化される保証は今のところないからです。
だとすれば、今回の試みは厳しくいえば、公園の問題の解決が目的であって、野宿者の生活支援策ではないということになるでしょう。
もちろん、エルムに住んでいる方の個々の退去後の生活について、
また、札幌の「ホームレス」全体の今後について、いずれにしても現在、予断の許さない状態にありますので、
今後、労福会としては、状況を見守りつつエルムの方の退去に関する手続きをお手伝いすることや
市に向けてエルム以外の野宿者へのより積極的な生活支援を講ずるよう訴えることなど、できうる限りの対応をとるつもりでおります。
また、この件については市の通告が急でかつ、事態の推移が早いせいもあり、労福会の方でも事実確認などに手間取っていることも現実です。
もし、エルム退去問題について何か情報をお持ちの方がいらっしゃれば、事務局までご一報くださると幸いです。
雇用説明の機会提供−路上生活者自立支援の新たな道となるか
9月29日、午後6時から企業と、路上生活者の間で雇用説明会が行われました。
この際、労福会は市民会館の場所の確保および路上生活者への案内を主に担当しました。
この話は、路上生活者に関する記事が紙面に掲載されていましたが、
その記事を見た企業が、札幌市に連絡をとったところ、札幌市が労福会を紹介したことから始まります。
労福会側としても、生活保護申請以外に、路上生活者の自立支援を模索していたところであり、
この紹介を受けた後に、早速手配をはじめました。行ったこととしては、場所(札幌市民会館)の確保および路上生活者に対する2度にわたるビラ巻きです。
本来ならば、こうしたこと以外に、路上生活者に対する相談活動や、企業への付き添いなどについても同時に行うべきところですが、
こうした活動は、本来職業安定所などの機関が行う「人材斡旋」おそれが出てきます。
これは国あるいは道などの認可を受けたところでなければできないということで、
今回は上記の通り、単なる場所の提供と、ビラ巻きのみとしました。
ビラ巻きの反応が決して好感触ということもなかったので、何名集まるか、不安もあったのですが、
説明会には、17名の路上生活者が集まりました。まず、労福会の担当が、今回の経緯を報告したあと、
企業側から、賃金、雇用条件、待遇などの説明を行い(次ページ写真参照)、その後質疑応答にうつりました。
企業側の話によると、今回の採用については、慈善事業でも、ボランティアでもなく、路上生活を送られた方の、ハングリー精神に期待する、
あるいは若者が、就職してもすぐに止めていくことを考えると、新卒を採用するよりも必死に働く人間のほうがよいということでした。
その後、10月1日から5日にかけて、採用試験が行われました。その結果について、労福会側は正確には把握していないのですが、
10名程度が受験し、そのうち、半数の5名程度が採用されたということが伝わっております。
こうした活動に関して、労福会側としては引き続き行っていきたいと考えていたところ、
ある企業から、依頼がありましたので、次回10月13日の支援企画において、前回同様のことを実施する予定でいます。
詳細については次号で改めて、報告いたします。