ともに生きる No.4(2001年3月7日発行)

「行政アピール」と「脱・路上生活」への取り組み

昨年11月の当会の調査から、極寒の冬に向かう札幌市に路上生活者の方々がおよそ100名いることがわかりました。
12月以降、会として行政に対するアピールを行う中で、市役所の担当課の方々と懇談する機会を数度持つことができ、
その結果、居宅生活を希望する路上生活者の方々の生活保護申請に向けた取り組みにつなげることができました。 以下、この間の取り組みの経過を紹介します。

12月11日、山内事務局長らが市役所に出向き、札幌市長に宛てた
「札幌における路上生活者が抱える問題の解決に向けてのお願い」と題する要望書を
市長、保護指導課、勤労市民課の3つの部署に提出しました。

「札幌における路上生活者が抱える問題の解決に向けてのお願い」の概要

1.札幌の路上生活者問題に関する私達の基本的なスタンス

1999年11月からの十数回に及ぶ調査や支援活動を通じて、
路上生活者の抱えている問題が決して彼ら自身にのみ原因があるのではなく、様々な社会的要因の上に浮かび上がったものであり、
そのほとんどが社会的な努力によってはじめて解決へ向かうものであることが明らかになってきた。現状の問題点としては、

  1. 路上生活者の圧倒的大多数が路上ではなく住居の中で暮らしたいと感じているにもかかわらず、
    そのようなニーズがまったく満たされていないこと。<住居問題>
  2. 彼らの健康状態は危機的状態にあることが多く、また適切な治療を受けることができないまま日々を送っているということ。<健康問題>
  3. 彼らは就労に対してかなり意欲的であり、つくべき職場がないために
    いつまでも今置かれた生活から抜け出すことができない悪循環に陥っているということ。<労働問題>

2.緊急に札幌市で対応して欲しい要請項目

  1. 住居について
    1. 冬期間(12〜3月)の季節的宿泊施設の開設〜救護施設の利用枠拡大、
      空き市営住宅の開放、民間アパートの借り上げ、民間・個人への空き部屋の一時無償提供を『広報』で呼びかける。
    2. 希望者全員への生活保護の適用による民間アパートなどへの入居促進〜保証人や敷金・礼金等については、
      入院者がアパートに入居する際と同様の措置を。
  2. 健康について
    1. 希望者への健康診断の無償実施〜「すこやか検診」の無償化、住民票提出義務廃止。
    2. 通院治療のケースにおける医療扶助の適用。
  3. 労働について
    1. 労働省の緊急雇用対策基金事業の年度内実施。少なくとも2001年度4月からの実施。
    2. 除雪・清掃・草刈・リサイクル等の事業に就労希望者を登録し順次雇用する。
      例えば順番に1日4時間程度5〜10人程度の従事という形態が考えられる。
    3. 事業の受け皿組織として、季節労働者の企業組合や仕事を求める会(失業者ネットワーク)等の活用。
  4. 巡回支援・相談事業について 
    幅広い悩みや困難を抱えている路上生活者に対する支援・相談活動を、市の福祉施策として具体化すること。
    財源としては、前掲の緊急雇用対策基金事業による事業化などにより、
    福祉事業に意欲を持つ一般失業者の雇用創出という一石二鳥の効果が考えられる。
  5. 3.中期的な路上生活者対策の調査・検討・協議の場(機会)の設置に関する要請

    札幌市の路上生活者を彼らの希望に基づいて減らしていくことは、
    彼らの命と健康にとって大きな意味を持つと同時に地域やまちづくりへも積極的に寄与することにもなり、
    それは市政に対する市民の信頼を高めると考える。そうした立場から、
    中期的に札幌市としての対応策を充実させていくための調査・検討・協議の推進を市民とともに図る機会を定期的に設けることを要望する。

    また、翌12月12日には、保護指導課の課長さんら3人の方との懇談が行われ、
    行政が行った路上生活者の実態調査(12月6〜8日実施)についての報告がありました。
    この調査で確認された路上生活者は、大通公園周辺に29人、札幌駅周辺に18人、エルムの里公園に21人、合計68(聴取54、目視14)人であり、
    昨年同時期の50人に比較し18人36%の増加とのことでした。

    12月21日には、要望書に対する回答が札幌市より文章で寄せられました。回答の概要は以下の通りです。

    「札幌における路上生活者が抱える問題の解決に向けてのお願い」に対する札幌市の回答の概要

    1. 住居について〜路上生活者を対象とした宿泊施設を開設することは考えていない。
    2. 健康について〜これまでも区の窓口を通して対応してきた。
      新たに健康相談の実施について関係部局と協議の上検討していきたい。
    3. 労働について〜緊急地域雇用特別対策推進事業は、民間企業等を活用して臨時応急の雇用・就業機会の創出を図るものであり、
      本市では特別に路上生活者を対象とした事業は計画していない。しかしながら受託企業等には、
      公共職業安定所を通じた失業者の雇用を指導しており、失業者である路上生活者が、
      路上生活者であるという理由で、本事業での雇用から排除されているものとは考えていない。
    4. 巡回支援・相談事業について〜昨年に引き続き12月初旬にホームレス実態調査を実施し、
      健康状態の聞き取りを行うとともに、区の相談窓口についての周知を行ったところであり、
      現在のところ新たに巡回支援・相談事業を実施する予定はない。
    5. 路上生活者対策の調査・検討・協議の場の設置について
      貴会との定期的な協議を行うことは意義あることと考える。
      市としては、こうした協議の場を継続する中で、民間ボランティアの役割、行政の役割について十分な話し合いを持ち、
      お互いのパートナーシップを高める形で連携していきたい。

    この回答に対してその真意を確かめるための懇談が、年の暮れもおし迫った12月27日に市役所にて行なわれました。
    前回同様、保護指導課の課長さんら3人との懇談の中で、基本的には回答文以上のことは踏み込めませんでしたが、
    脱路上を本気で考えている人には役所に出向いてくれれば、何らかの対応をするつもりであることを伺うことができました。
    また、雇用に関しては担当である勤労市民課との話し合いも必要であることが改めて確認されました。
    この懇談によって直接効果的な対策が講じられた訳ではありませんが、ざっくばらんな話が3時間ほどなされ、
    役所としてもこのような話し合いを継続的に行っていきたいという意向が出されるなど、意義のある懇談となりました。

    これらの経過を踏まえ、1月21日と2月25日の「健康・生活相談会」では、
    当事者の方との対話の中で脱路上生活を望んでいる人に対して生活保護の説明を行い、
    申請希望者に対しては翌日以降区役所での申請に付き添うなどの取り組みを展開してきました。
    現状としては行政側の運用上の都合から、入院か救護施設への一時入所により
    住所の特定を行った上で保護申請をするという道筋がつくられ、徐々にではありますが、
    路上生活から居宅生活への転換を図りつつある人がでてきています。
    その際、健康上必要性を認められた方は即入院となりますが、
    それ以外の多くの方は救護施設の空きが限られているため、順番が来るまで待機となっている状況です。
    今後も、路上生活者の方々への支援を続けるとともに、行政へのはたらきかけを行う中で、
    現状の打開が図られるような取り組みが求められています。