ともに生きる No.2 (2000年5月13日発行)

どうしたらいい?全国の経験から学ぶホームレス対策とは?

近年、全国的に野宿者の方が急増し、その数は厚生省の報告によると全国で2万人を超えているとされています(表参照)。
今回は、全国的な視野から、「野宿者(路上生活者、ホームレス)」といわれる人々が、
ここ数年でなぜ急増してきたのかを紹介したいと思います。野宿に至る原因として、
庄谷怜子氏によれば、「失業」「福祉の後退」「住宅政策の貧困」の3点があげられています(『2000年日本の福祉論点と課題』より)。

  1. 失業:直接の主な原因は、不況による失業や自営業の行きづまりで、
    収入減少、借金増となり住宅費が払えなくなったことによるものである。
    野宿が長期化すれば、労働能力・体力の低下、意欲の喪失を招き、路上死に至る人々が増えるばかりか、
    自立困難な大量の要保護者を抱えてしまう。
  2. <福祉の後退:隠された原因は、1980年代からの社会保障政策の後退にある。
    「最後のセーフティネット」である生活保護法が、80年代以降の福祉削減政策で、
    85年からの約10年間に保護受給者は143万人から88万人へと50万人以上減少した。
    生活保障の予防的機能が働かなくなっている。
  3. 住宅政策の貧困:わが国の住宅政策の構造的な貧困が野宿者増の背景にある重要な原因である。
    ドイツに見られるような低家賃住宅の大量建設に取り組む必要がある。

日本では、1999年6月、ようやく国レベルの当面の「ホームレス」対応策がまとまりました。
これを受け、大阪府・大阪市などでは雇用対策に取り組み始めました。 この運用の背景には、日雇い労働者自らが核となった非営利組織(NPO)の「釜ヶ崎支援機構」の存在があります。
公的なホームレス対策はまだ一部の限られた自治体で始まったばかりです。
野宿を解消するために緊急に取り組まなければならない課題として海老一郎氏の提案を紹介します(『総合社会福祉研究16』)。

  1. 全国レベルでの公的就労対策の実現
  2. 法外援護ではなく、生活保護法に即した居宅保護を原則とする生活保護の実施(全国共通の対応)
  3. 対象者や期間の限定をしない緊急シェルターの建設

今年3月に、札幌市議会においても、ホームレス問題について取り上げられたということですが、
今後の札幌市の対応について、この問題が人権問題であることを認識し、急場をしのぐ対策とともに、
より根本的・総合的な対策を早急に行なうような方向性が示されることを切望しています。

表 野宿を余儀なくされている人々の全国的状況
都市名野宿者数調査月備考
大阪8,6601998年8月8,660
東京23区5,8008月4,300
名古屋1,0195〜6月758
川崎9017月746
横浜7948月439
神戸3358月229
京都30010月200
福岡2698月174
北九州16611月80
尼崎1609月-
熊本12210月-
広島11511月98
千葉1138月104
仙台11110月53
市川(千葉)1006月-
松山9010〜11月-
宇都宮853,8月-
堺(大阪)8310月48
豊中(大阪)769月-
大宮(埼玉)6910月-
川口(埼玉)6510月-
藤沢(神奈川)485〜7月-
金沢469月-
西宮(兵庫)466月-
柏(千葉)4510月-
福山(広島)4410〜11月-
札幌4311月-
府中(東京)405月-
摂津(大阪)357月-
豊橋(愛知)3410月-
東大阪(大阪)337月-
姫路(兵庫)3010月-
久留米(福岡)3010月-
那覇--63
その他の市544-295
合計20,451-16,247

資料出所:1999年10月末厚生省調べ、調査月は大阪市以外は1999年。
備考の数字は1999年5月、政府の「ホームレス問題連絡会議」発表のもの。

渋谷の野宿者支援団体の人に会ってきました〜東京出張報告〜

私、小西祐馬(北大教育学部4年)は、「渋谷・野宿者の生活と居住権をかちとる自由連合(のじれん)」さんと
事前にEメールでやりとりをして、東京に行った際に役員の方と直接会ってお話を伺うことができました。
そこには私達の今までの活動にはなかった発想や方法がありました。

1. 「のじれん」とは

上野公園の外国人と野宿者の支援団体であった「いのけん」という会を経て、
1998年の4月に「のじれん」は発足しました。もう10年近く活動を続けているそうです。
まず、私が「のじれん」に興味を持ったのは、その充実した日常活動にあります。
日曜:就労相談、月曜:福祉行動、火曜:東京の3つの団体が合同で行う会議に参加、
水曜:池袋パトロール、木曜:事務局会議、金曜:代々木パトロール、土曜:共同炊事(炊き出し)。
私達の会では月に一度の支援企画でも準備に手間取り、大きな労力を要します。
なぜ「のじれん」はこのような過密スケジュールで行えるのか、
どうすれば私達もそのようにできるのか、それを聞いてみたいと思いました。

2. 「仲間」という概念

ひとつには、長年にわたって活動しているので、作業がルーティーン化されている、ということが挙げられると思います。
しかし、ここで重要視したいのは、「仲間」という概念です。「のじれん」では、野宿者のことを、「仲間」と呼びます。
つまり、共に活動を行う「仲間」であり、「支援者側」と「野宿者側」の壁を取り払って活動しているのです。

例えば、炊き出しでは支援側の人間は2,3人しか参加しません。全て「仲間」がセッティングし、調理し、配るのです。
支援側はお金と道具の管理をするのみです。

3. 「団結」

「のじれん」では、炊き出しを始めとするほとんどの活動を、仲間が交流するための「場作り」、「材料」として捉えています。
週に一度、一食では生きていけません。それよりも、そこに集まった仲間で語り合い、相談し、団結していくことに意義がある、
そしてみんなで権利をかちとっていくんだ、ということだと思います。

4. 「自立」

勿論、のじれんにも「自立」=「路上脱却」という一般的な概念があり、就労に関する様々な活動を行っています。
しかし、どうしても既存の社会に適応できない野宿者の方がいるのも事実です。そんな仲間が仲間同士とのつながりの中で、
人間として幸せに生きていける新しい空間を切り拓いていく、ということもひとつの方向性として挙がってきているそうです。

私達と「のじれん」の大きな違いのひとつに、当の「ホームレス」の人たち自身がどれだけ関わっているか、
どれだけ彼らから信頼を得ているか、ということがあり、これは非常に大切な事であり、欠かせないことだと考えます。
私達はこの点で遅れをとっていると思いますが、徐々に「ホームレス」の方と協力して行動する事ができ始めています。

「のじれん」や、その他全国の団体の活動を参考にしながら、またお互いに協力しながら、
私達自身の道を見つけていきたいと思います。

のじれん連絡先

〈事務所〉〒150-0011渋谷区東1-27-8-202 / 03-3406-525(tel&fax)

〈ホームページ〉www.jca.apc.org/nojukusha/nojiren/

〈E-mail〉nojiren@jca.apc.org

〈カンパ送り先〉 郵便振替:00160‐1‐33429 「のじれん」